COBOLは今も多くの基幹システムで稼働しており、その多くがIBMのメインフレーム上に存在しています。
特に銀行や保険、行政などの業務では、IBM Zシリーズと呼ばれるメインフレーム環境が標準です。
高い信頼性と後方互換性を誇る一方で、「保守できる人がいない」「開発環境を用意できない」といった課題が年々深刻になっています。

こうした背景の中、当社グループではベトナムにおいてIBM COBOL環境を仮想的に再現し、オフショアで保守・開発を継続できる体制を構築しています。
本記事では、その仕組みと現実的なメリットを整理していきます。

この記事はこんな人にオススメ!

・IBMメインフレーム(IBM Z)上で稼働するCOBOLシステムの保守・運用に課題を感じている方
・国内人材の高齢化やコスト上昇を踏まえ、オフショアでのCOBOL保守体制構築を検討している方
・ベトナム拠点でのCOBOL開発環境やIBM Zエミュレーターを活用した再現スキームの概要を知りたい方

なぜIBM Z環境は特別なのか

IBM Zは、IBMが半世紀以上にわたり改良を重ねてきた大型汎用コンピュータです。“止まらないシステム”として設計され、24時間365日稼働を前提とした堅牢な構造を持っています。

金融機関では振込処理や決済を、自治体では税務・福祉システムを、製造業では基幹業務を──社会インフラ級のシステムを支える存在が、このIBM Zシリーズです。

そのほとんどがCOBOLで記述され、z/OS上で実行されています。つまり「COBOLを扱う」ということは、「IBM Zを理解する」こととほぼ同義なのです。

しかし、Zマシンは高価であり、企業ごとに環境が異なります。保守チームが国内外で同じ環境を再現するのは容易ではありません。
この点が、COBOL保守の属人化や人材育成を難しくしてきた理由のひとつです。

オフショアでIBM環境を再現するという発想

ベトナムに設立されたSystem Sustainability Vietnam(SSV)では、この課題を解決するために、IBM Zエミュレーターを活用した仮想開発環境を整備しています。

この仕組みでは、実際のIBM Zマシンを持ち込む必要はありません。
エミュレーター上でCOBOLのコンパイルや実行を再現できるため、ベトナム側でも日本と同等の開発・検証が可能になります。

開発環境・テスト環境は閉域網(Direct Connect)で日本と接続され、データが外部に出ないよう厳格に管理されています。
オフショアでありながら、国内と同水準のセキュリティを維持できる構成です。

こうして、IBM環境を「移す」のではなく「再現する」という形で、現場に近い開発体験を海外拠点でも実現しているのです。

再現環境がもたらす3つのメリット

コストを抑えながら継続できる
実機を持たずにエミュレーターで開発・検証を行うため、メインフレーム運用の高コスト構造を大幅に軽減できます。
特に試験や教育用途では、物理的な制約がない分、柔軟な運用が可能です。

教育と人材育成の基盤になる
SSVでは、タインホア省のHong Duc大学と提携し、学生にCOBOL教育を行うと同時に、エミュレーター環境を使った実務体験を提供しています。
この仕組みにより、卒業時点でIBM COBOLの操作・テスト経験を積んだ若手を現場に送り出せるようになりました。
教育から実務への連続性をつくることで、人材育成の再現性が高まります。

セキュリティと品質の両立
開発環境はVPNまたは専用線で日本側と直結され、SSVオフィスでは指紋認証による入退室管理や監視カメラによる録画を実施。お客様ごとに専用の作業部屋を用意し、外部ネットワークと物理的に分離しています。
こうした仕組みにより、IBM COBOLのような高機密業務でもオフショアで安全に実施できます。

IBM COBOL案件を支える体制

IDSグループのCOBOLオフショア体制は、日本側PMO+ベトナム側開発チーム+品質管理(QC)チームの三層構造です。

日本人PMOが要件定義や進捗を管理し、ベトナム側ではブリッジSEが日越の橋渡しを担当。
QCチームは独立して品質を検証し、仕様書やテスト結果を整備します。

さらに、プロジェクト初期にはブリッジSEが日本に数か月常駐し、業務理解やドキュメント整備を行った上でベトナムへナレッジをトランスファー。
この流れにより、オフショアでも日本の開発標準を維持できる体制を確立しています。

「環境を再現する」ことの意味

IBM Zの強みは、信頼性と互換性にあります。つまり、同じ環境をどこで再現できるかが保守体制の生命線です。

エミュレーターの活用によって、国内でしか扱えなかったIBM COBOL資産が、海外拠点でも安全に検証・教育・保守できるようになったことは大きな変化です。
単なる「オフショア化」ではなく、「知識と環境を継承できる仕組み」ができたとも言えます。

IBM環境は今後も完全にクラウドへ置き換わることはないでしょう。
だからこそ、技術をそのまま海外に“再現”するという発想が、COBOL保守の持続性を支える新しいアプローチになっています。

おわりに

COBOL資産を維持しながら次世代へ引き継ぐためには、単に人を増やすのではなく、環境そのものを再現することが重要です。

ベトナムで構築されたIBM COBOL開発体制は、“動かし続ける仕組み”をそのまま別の場所で再現するという、これまでにないアプローチで企業の課題に応えています。

止められないシステムを支えるための「再現」という選択肢。
それが、これからのCOBOL保守を現実的に続けるための鍵になるでしょう。

COBOL保守体制構築サービスのご案内

本記事でご紹介したIBMとCOBOLの関係、そして日本の基幹システムを支えるメインフレーム環境の背景を踏まえ、当社ではベトナムにおけるCOBOL保守体制の構築支援を行っています。

資料では、Hong Duc大学との教育連携モデルをはじめ、COBOL専門チームの育成プロセス、IBM Zエミュレーターを活用した開発環境、自治体向けの導入事例などを掲載しています。

現地と日本をつなぐ品質管理・セキュリティ体制も含め、持続可能なCOBOL保守の仕組みを詳しくご紹介しています。

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《IBMとは何か ― 世界を支える“見えない巨人”の正体》