こんにちは!スマラボ事業部の磯野です。
「2025年の崖」というキーワードを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
これは経済産業省が2018年に発表した『DXレポート』で提唱されたもので、「日本企業の多くが、老朽化した既存システムに依存したままDXを進められずにいる」ことに対する警鐘です。
同レポートでは、2025年までにシステム刷新が進まなければ、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると指摘されました。以降、「崖」という表現のインパクトの強さも手伝って、IT業界を中心にこの問題は急速に拡散されていきました。
しかしその一方で、「崖を超えないために、とにかくマイグレーションを急げ」という風潮が先行し、問題の本質を見誤ったまま移行計画を進めてしまっている企業も少なくありません。果たして、レガシーシステムを刷新することが本当に唯一の正解なのでしょうか?
そして、崖の“正体”とは何なのか。この記事では「2025年の崖」の背景にある構造的課題を丁寧に整理し、後編で現実的な打ち手へとつなげていきます。
この記事はこんな人にオススメ!
- 自社にCOBOLやレガシーシステムが残っており、マイグレーションの判断に悩んでいる
- 2025年の崖問題に漠然とした不安を抱えているが、何から手をつけるべきかわからない
- 「マイグレーションがうまくいかなかったらどうなるのか」と冷静にリスクを見ておきたい
目次
経産省が語る「崖の正体」――本当に足りないのは“人”
経済産業省が2020年に公開した『DXレポート2』および『DXレポート2.1』では、「崖問題」は技術よりもむしろ“人材・体制”の問題であることがより明確に言及されています。
とくにDXレポート2.1では、以下のような警告が示されています:
“レガシーシステムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化し、既存システムを熟知した技術者の退職などにより、事業継続や競争力確保に支障をきたすリスクが高まる”
—経済産業省『DXレポート2.1』(2021年8月)
この一文には、「技術」よりも「人」こそがレガシー化の根本課題であるという認識が読み取れます。
システムが古いことそれ自体は必ずしも問題ではありません。問題は、それを理解し、保守し、活かせる人がいなくなるという点にあるのです。
実際、IPAが発行する『IT人材白書2023』によれば、IT人材全体のうち50代以上の割合は20%を超え、特にCOBOLなどの旧来技術に特化した人材では60代以上が多数を占めるという報告もあります。
企業にとって最も危険なのは、「老朽システムがあること」ではなく、「それを守れる人がいない」ことなのです。
なぜレガシーシステムは簡単に“捨てられない”のか?
では、そうしたリスクを解消するために、老朽システムを刷新すれば良いのでしょうか?
残念ながら、それも簡単ではありません。
多くの企業が直面しているのは、以下のような理由で“刷新できない”現実です:
- 基幹業務がCOBOLなどで稼働しており、全容を把握できていない
- ドキュメントが存在せず、属人化されたコードが数十年放置されている
- 刷新には数億〜数十億円の予算が必要だが、ROIの説得力が弱い
- そもそも「移行先」の仕様が決められない(現状を再現できない)
これらは決して珍しいケースではなく、特に製造業や金融、公共系といった長寿なIT資産を持つ業界ほど、同様の課題に悩まされています。
現場の声としても、「今さら全てをクラウドに移行するのは非現実的」「ブラックボックス化が進みすぎて誰も全体像を理解していない」というような意見が後を絶ちません。
つまり、刷新は“手段”ではあっても、必ずしも“正解”ではないのです。
「マイグレーション=正解」という神話の危うさ
近年、業界全体で「とにかく刷新しよう」「マイグレーションしよう」という動きが活発化しています。
特にベンダー側からの提案として、パッケージ導入やSaaS移行が“最も合理的な判断”として推されがちです。
ですが、日経BPの記事(参考URL)では、こうした“マイグレーション神話”に対して疑問を呈しています。
その中では「IT部門が業務部門の要件を把握できておらず、仕様を整理しきれないまま刷新プロジェクトが進み、結局うまくいかない」という失敗パターンが紹介されています。
実際、ITコンサルティング会社での調査によると、システム刷新を試みた企業のうち、約3割が中断・延期しているという報告もあります。
つまり、「崖から飛び降りようとして足をくじく」ような状態が、既に各地で発生しているのです。
このような失敗の共通点は、「今あるシステムの役割や仕様を理解しないまま、ツールや環境だけを変えようとしている」点にあります。
その結果、現場の業務フローと乖離し、かえって混乱を招くことになりかねません。
崖の本質は“技術”ではなく“継承”にある
ここまでを整理すると、「2025年の崖」の本質は以下のように要約できます:
- 単なる技術の古さではなく、人材の不足と継承断絶が主因
- マイグレーションは有効な手段だが、現状分析と設計ができないままでは逆効果
- 刷新が難しいなら、現状を維持・補完しながら延命・改善する道もある
この視点に立ったとき、企業がやるべきことは「マイグレーション or Die」ではなく、「自社のIT資産の現実を直視し、守るべきものと変えるべきものを正しく見極める」ことです。
つまり、2025年の崖を越えるには、技術選定よりも先に体制構築が必要なのです。
現場の技術者がまだ健在なうちに、そのノウハウや資産を第三者に引き継いでおくこと。これこそが、崖に落ちないための現実的かつ必要な一歩です。
次回予告:崖を越える「第3の道」――COBOL資産を守るという戦略
いかがでしたか?
後編では、「2025年の崖=マイグレーション一択ではない」という視点から、COBOLなどのレガシー資産を維持・継承していくための現実的な対策について掘り下げます。
特に、属人化のリスクを減らし、安定した保守体制を外部に築く「COBOL特化型のオフショアチーム」の可能性や、ベトナムの現地教育との連携によって“守ることができる選択肢”がすでに実現されていることを紹介します。
マイグレーションではない、もうひとつの答えを知りたい方は、ぜひ後編もお読みください。
▼ 以下の資料で、2025年の崖問題についてCOBOLに焦点を当てて解説しています▼