「来期はAI開発に力を入れるぞ」 「とにかくAIを使って何か作れないか?」
最近、社内でこのような会話が飛び交っていませんか? AI技術の急速な進化に伴い、多くの企業が開発現場へのAI導入を急いでいます。しかし、ここで一つ大きな落とし穴があります。
実は、一口に「AI開発」と言っても、全く異なる2つの意味が含まれていることが多いのです。
私自身、以前上司から「AI開発の件、どうなってる?」と聞かれた際、開発プロセスの話をしているのか、新機能の話をしているのかが噛み合わず、答えに窮した経験があります。
この2つを混同したままプロジェクトを進めると、「期待していたものと違う」「予算が全く足りない」といった失敗に直結します。
本記事では、混同されがちな「AI駆動開発」と「AI機能開発」の決定的な違いを、非エンジニアの方にも分かりやすく解説します。
目次
結論:2つの違いは「How」か「What」か
結論から言うと、この2つは「主語」と「目的」が明確に異なります。
開発者がAIを「道具」として使い、プロセスの生産性を極限まで高めること。
製品にAIを「機能」として組み込み、ユーザー体験の価値を高めること。
AI駆動開発 (AI-Driven Development)
- How(どう作るか)の変革
- 開発者がAIを「道具」として使い、開発効率を高めること。
AI機能開発 (AI Feature Development)
- What(何を作るか)の変革
- 製品にAIを「機能」として組み込み、ユーザー体験を高めること。
簡単に言えば、「AI『で』作る(駆動)」のか、「AI『を』作る(機能)」のか、という違いです。
それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
AI駆動開発とは?(プロセスの変革)
AI駆動開発とは、システム開発のプロセス自体にAIを活用することです。 主役は「エンジニア(開発者)」であり、AIはエンジニアを助ける「優秀な副操縦士(コパイロット)」の役割を果たします。
具体的に何をするのか?
- コード生成:GitHub CopilotやCursorなどのツールを使い、AIにプログラムの下書きを書かせる。
- バグ修正:エラーの原因をChatGPTに解析させ、修正案を提示させる。
- ドキュメント作成:要件定義書やテスト仕様書のたたき台をAIに作成させる。
ビジネス上のメリット
- 経営視点での最大のメリットは「生産性の向上」です。
- 開発スピードが上がり、リリースまでの期間(Time to Market)を短縮できる。
- 単純作業をAIに任せることで、エンジニアがより創造的な設計や課題解決に集中できる。
AI機能開発とは?(プロダクトの価値)
AI機能開発とは、エンドユーザーが使うソフトウェアやアプリの中に、AIの能力(予測、生成、認識など)を組み込むことです。 主役は「製品を使うユーザー」であり、AIはユーザーの課題を解決する「魔法のエンジン」として機能します。
具体的に何をするのか?
- チャットボット:顧客からの問い合わせに24時間自動回答する機能。
- レコメンド:ユーザーの好みを分析し、最適な商品を提案する機能。
- 業務自動化:議事録の要約や、画像からのデータ抽出機能。
- RAG(検索拡張生成):社内データを参照して回答する専門的なAI検索機能。
ビジネス上のメリット
経営視点での最大のメリットは「顧客体験(UX)の向上と差別化」です。
- 従来ルールベースでは不可能だった柔軟な対応が可能になる。
- 製品の付加価値が高まり、競合他社との差別化要因になる。
混同することのリスク:なぜ「使い分け」が必要なのか?
「AIを使うんだから(駆動)、開発費は安くなるし、納期も半分になるんだろ?」
「いえ、今回作るのはAI機能(機能)なので、精度の検証(PoC)にむしろ通常より時間がかかります…」
この2つを明確に区別できていないと、以下のようなトラブルが起こりやすくなります。
ケースA:見積もりの認識ズレ
上司: 「AIを使うんだから(AI駆動)、開発はすぐに終わって安くなるんだろ?」 現場: 「いえ、AIを組み込む機能(AI機能)なので、精度の検証に普段より時間がかかります」
「AI機能開発」は、従来の開発よりも検証(PoC)やチューニングに多くの工数を要する場合があります。「AIを使えば何でも速くなる」という誤解は危険です。
ケースB:顧客への誤ったアピール
営業: 「当社の開発体制はAIを導入しています!(AI駆動)」 顧客: 「すごい!じゃあ、このアプリにもAIレコメンド機能が入っているんですね?」 営業: 「あ、いえ、それは入っていません……」
自社の強みが「速く作れること(プロセス)」なのか「賢いものが作れること(プロダクト)」なのかを整理して伝える必要があります。
まとめ:これからの開発のスタンダード
最後に、2つの違いを表にまとめました。
| 比較項目 | AI駆動開発 (How) | AI機能開発 (What) |
|---|---|---|
| 一言で言うと | 「作り方」の革新 | 「売り物」の革新 |
| AIの役割 | 開発者の副操縦士 | 製品のコアエンジン |
| 主な目的 | コスト削減・短納期化 | 売上向上・UX改善 |
| 代表ツール | GitHub Copilot, Cursor | OpenAI API, RAG |
これからの時代は、「AI駆動開発(効率的な作り方)」で「AI機能(高付加価値な製品)」を作ることがスタンダードになっていくでしょう。
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