COBOL(コボル)という言語に対して、「もう使われていないのでは?」「昔の技術でしょ」といった印象を持つ方は少なくありません。しかし実際には、COBOLは現在も社会の根幹を支える多くのシステムで稼働を続けています。とくに、金融や行政、基幹業務といった“止めてはいけない業務”において、COBOLは今なお現役の存在なのです。

システム刷新やモダナイゼーションが叫ばれる中で、「なぜCOBOLは未だに使われているのか?」「どこに、どのように残っているのか?」という問いが、あらためて注目を集めています。
本記事では、COBOLが使われている具体的な業界や事例、そして移行できない背景や、今後も残ると考えられる領域について整理しながら、COBOLの“今”を明らかにしていきます。

レガシーと呼ばれながらも、その重要性が再評価されつつあるCOBOL。その現状を正しく理解することは、今後のIT投資や運用体制の見直しにおいても欠かせない視点となるでしょう。

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COBOLという言語が、現在もどこで使われているのか実情を把握したい情報システム部門の方

レガシーシステム刷新を検討するにあたって、COBOL資産の重要性を再確認したいご担当者様

オフショアや社外パートナーとの連携を視野に、COBOLの活用方針を見直したいITマネージャー

COBOLが使われている業界と代表例

COBOLは、単なる「古い技術」ではありません。現在も多くの業界で、日常業務や社会インフラを支えるシステムの中核を担っています。ここでは、とくに利用が多い代表的な業界と、その背景を解説します。

金融業界(銀行・保険・証券)

もっともCOBOLの使用率が高いとされるのが金融業界です。銀行の勘定系システム、保険の契約管理・支払業務、証券会社の取引処理など、膨大なトランザクションを正確に処理する必要がある領域で、COBOLは今も中核的な役割を果たしています。

実際メガバンクでは、基幹システムの多くがCOBOLで構築されており、一部は60年代からのコードを継ぎ足しながら運用しています。高い信頼性や処理能力が求められる業務では、未だCOBOLを超える言語は現れていないとも言われます。

公共分野(自治体・年金・税務)

行政機関においても、COBOLは重要な役割を担っています。たとえば、住民基本台帳、地方税の管理、年金情報処理など、膨大かつ複雑なデータを扱う分野では、過去にCOBOLで構築されたシステムが今も数多く稼働しています。

一例として、地方自治体向けの住民情報システムや、厚生労働省が所管する年金管理システムなどが挙げられます。これらのシステムは法制度の改正にも継続的に対応する必要があり、そのたびにCOBOLベースのプログラムが修正されながら今も使われ続けています。

製造・物流・通信などの基幹業務系

大手の製造業や通信事業者でも、COBOLは受発注管理、在庫管理、請求処理、顧客情報管理といった基幹業務で利用されています。特に、長年にわたり蓄積された業務ノウハウがシステムに埋め込まれているケースが多く、移行が困難な状況が続いています。

業務ごとにカスタマイズされたCOBOLシステムは、現場の業務プロセスと一体化しているため、新しいシステムへの単純な置き換えが難しいという実情もあります。

システム子会社・SIerのレガシー案件

大手企業の情報子会社や、老舗のシステムインテグレーターの中には、COBOLを中心とした保守・運用業務を継続して請け負っているケースもあります。こうした企業では、COBOL技術者の高齢化が進みつつも、依然として安定運用を支えるためのニーズが根強く残っています。


以上が、COBOLが現在も利用されている主要な業界の代表例です。
このようにCOBOLは、社会の根幹を支える業務システムの中で、今なお実用レベルで活躍し続けているのです。

なぜ今も使われ続けているのか?

COBOLが登場してからすでに60年以上が経過していますが、いまだに多くの組織で現役として稼働し続けています。これは単に「置き換えられていないから残っている」という消極的な理由だけでなく、COBOLという言語が備える構造的な強みや、その運用にまつわる組織的背景が深く関係しています。

信頼性と処理安定性の高さ

COBOLが最も評価されてきた特長のひとつが、「信頼性」です。金融や行政といったクリティカルな業務において、ミスやバグが致命的な損失につながる中で、COBOLは膨大な数の取引を安定的に処理できる実績を積んできました。

また、COBOLはバッチ処理や帳票出力などの業務ロジックに特化した言語であり、その分野においては長年にわたり最適化されてきた歴史があります。たとえば、日次決済処理や定型的な集計業務などにおいて、COBOLの処理効率と安定性は今なお高い評価を受けています。

長期間稼働を前提とした設計

COBOLで構築されたシステムは、10年・20年単位の長期利用を前提として作られていることが多く、保守性や堅牢性が極めて高いのが特徴です。現代の短命なWebアプリケーションとは対照的に、COBOLは「壊れないこと」が重視され、実際に数十年にわたり稼働し続けているシステムも少なくありません。

一度設計されたCOBOLシステムが安定して動作している限り、わざわざリプレースする必要性が感じられない——このような“壊れていないものは壊すな”という文化も、COBOLの延命を支える要因となっています。

他システムとの密結合とブラックボックス化

多くのCOBOLシステムは、周辺の業務システムや基幹システムと複雑に連携しており、その構成は一朝一夕には把握できないほど入り組んでいます。また、仕様書が存在しない・更新されていないなど、“ブラックボックス化”してしまっているケースも非常に多く見られます。

こうした状況では、新システムに置き換えるには莫大なコストと時間、さらにはリスクを伴うことになり、結果的に「現行のCOBOLを維持する方が現実的」という判断がなされやすくなっています。

現場がCOBOLに“慣れている”

最後に忘れてはならないのが、COBOLに長年携わってきた現場の人材は、COBOLシステムの構造や運用に精通しているという点です。
新しい技術への置き換えには、現場での再教育や業務フローの見直しが伴い、“慣れている仕組み”を壊すリスクが生じます。

とくに公共分野や金融業界では、「安定的に稼働している」「現場が使いこなせている」という事実自体が、COBOLを使い続ける強力な理由となっているのです。


COBOLは「古いが使い続けられている」のではなく、“現実的な選択肢”として残されているというのが実情です。
では、そのようなCOBOLシステムがなぜ刷新されず、どのような理由で移行が進まないのでしょうか?

次章では、その背景にある「移行できない事情」について詳しく見ていきます。

なぜ移行されないのか?

COBOLが現役で使われ続けている理由のひとつに、「刷新したくてもできない」という現実的な事情があります。技術的にはモダナイゼーションやリプレースの選択肢が存在していても、実際の現場ではさまざまな障壁が立ちはだかっています。

ここでは、COBOLからの移行が進まない主な要因を解説します。

莫大なコストとリスク

まず最初に立ちはだかるのが、移行にかかるコストの大きさです。
COBOLシステムは大規模かつ長期的に運用されてきたものが多く、これらをまるごと新システムへ置き換えるには、多大な予算と人手が必要になります。

加えて、移行中にトラブルが発生した場合、業務が止まるリスクもあります。
とくに金融や行政などのクリティカルな分野では、「移行失敗=社会的信用の喪失」に直結する可能性があるため、“失敗できない”プレッシャーが移行判断を慎重にさせています。

仕様が不明・属人化したコード

COBOLシステムは、何十年にもわたり“現場の実態”に合わせて改修され続けてきました。
その結果、もともとの設計書や仕様書が存在しない、もしくは最新版が誰も把握していないといった“ブラックボックス”化した状態になっているケースが多くあります。

さらに、過去に開発や改修を担当していたエンジニアがすでに退職・定年などで現場にいないというケースも多く、属人化した業務ロジックを誰も解読できないといった深刻な課題に直面しています。

こうした状況下で、正確な要件定義や置き換え対象の把握すら困難となり、移行プロジェクトがスタート地点からつまずくことも少なくありません。

現行システムが「一応動いている」

皮肉にも、COBOLシステムがあまりにも安定して動いていることが、刷新判断を鈍らせる原因になることがあります。
「大きな問題が起きていない」「業務は回っている」という現状があると、経営層や情報システム部門も、“わざわざ壊す必要があるのか?”という議論に傾きがちです。

とくに、IT以外を主業とする企業や自治体では、目先の業務を支えているCOBOLシステムに手をつけることでトラブルを招くリスクを避けたいという意識が強く働くのが現実です。

移行事例の少なさと不安

また、COBOLから完全に移行して成功した事例が少ないことも、移行のブレーキになっています。
一部の大手企業では刷新プロジェクトに着手したものの、スケジュールの大幅な遅延やコスト超過により中断・頓挫したというニュースも後を絶ちません。

このような事例が広まることで、現場には「COBOLの移行は難しい」「うまくいく保証がない」という漠然とした不安と抵抗感が根強く残り、結果的に現行のシステムを使い続ける選択に落ち着いてしまうのです。


COBOLシステムは、単なる“古い技術”ではなく、「動いてはいるが、簡単には変えられない」存在として企業の中に残り続けています。
この現実を正しく理解することが、これからの運用戦略を考えるうえでの第一歩となるでしょう。

次章では、このような中でも「今後も残ると見られるCOBOL領域」について整理し、維持や活用の可能性についても掘り下げていきます。

今後もCOBOLが残る領域とは?

システムのモダナイゼーションが進む一方で、「すべてのCOBOLシステムを完全に刷新できるか」と問われれば、答えはNOです。今後もCOBOLが残ると予想される領域には、いくつかの共通点があります。

法制度や慣習に深く結びついた業務

まず、税務、会計、社会保障といった分野では、法改正や制度変更に対応するための複雑なロジックが長年にわたってCOBOLで蓄積されてきました。これらの業務は、業界や国ごとの細かな慣習とも深く結びついており、標準化・汎用化が困難です。

こうした領域では、既存システムを完全に作り直すよりも、COBOLでの継続運用の方が現実的という判断がなされるケースが多く見られます。

属人化しすぎて移行リスクが高いシステム

また、過去に頻繁な改修が繰り返されてきた結果、仕様書が不完全だったり、開発経緯が把握できないような“ブラックボックス化”したシステムも、今後もCOBOLで維持される可能性が高い領域です。

業務ロジックが完全に属人化しており、影響範囲すら明確にできない状態では、新システムへの置き換えはかえって大きなリスクになってしまいます。

変化の少ない業務プロセス

さらに、ビジネスモデルや制度が比較的安定しており、定型処理が中心の業務プロセスでは、COBOLによる運用のままで十分なパフォーマンスを維持できているケースも少なくありません。

たとえば、月次・年次の帳票処理やデータ集計といった“変わらない業務”では、COBOLが最適な選択肢となり得ます。


今後、IT業界全体が新技術へと移行していく中にあっても、COBOLが残り続ける“必要がある”領域は確実に存在します。
そのうえで、企業は「残す領域」と「変える領域」を見極め、共存を前提とした体制づくりが求められる時代に入ってきているのです。

まとめ:COBOLは「過去の遺産」ではなく、今なお“選ばれている技術”

COBOLというと、「古くて使われているのが不思議な技術」というイメージを持たれがちですが、実際にはその逆です。
COBOLは、業務と密接に結びついたシステムの中で、安定稼働と信頼性という強みを武器に“選ばれ続けている技術”でもあるのです。

本記事では、COBOLが今もどこで、どのように使われているのか、そしてなぜ移行が難しいのかについて具体的に解説してきました。
確かに「新しくない」かもしれませんが、それをもって「価値がない」とは言えません。

むしろ、重要なのはその現実を踏まえた上で、どう維持・活用していくかです。
特に今後、技術者不足がさらに深刻化する中で、COBOL資産の扱い方は企業の“ITインフラ戦略”の根幹を左右するテーマとなるでしょう。

属人化を防ぎ、COBOLを未来につなぐには体制設計が欠かせません。
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