オフショア開発にはさまざまな難しさがありますが、日本企業には特有のつまずきポイントがあります。初めてオフショアを活用する企業の方からは、次のような声をよく耳にします。

  • 「説明したつもりなのに、なぜか伝わっていなかった」
  • 「仕様通りのはずなのに、期待したものとは違う仕上がりになった」
  • 「コミュニケーションに想像以上の手間がかかった」

こうした問題は、文化差や言語差だけが原因ではありません。
日本独自の商習慣や意思決定の仕方が、海外の開発体制とうまく噛み合わないことで生じる“構造的な壁”です。

しかし、この壁は事前に理解し、正しい体制を整えることで確実に乗り越えることができます。本記事では、日本企業がオフショア開発で直面しやすい壁と、その突破方法について解説します。

この記事はこんな人に読まれています。

  • IBMメインフレーム(IBM Z)上で稼働するCOBOLシステムの保守・運用に課題を感じている方
  • 国内人材の高齢化やコスト上昇を踏まえ、オフショアでのCOBOL保守体制構築を検討している方
  • ベトナム拠点でのCOBOL開発環境やIBM Zエミュレーターを活用した再現スキームの概要を知りたい方

壁①:暗黙知に頼りすぎる ― “言わずとも伝わる”は通用しません

日本の開発現場では、“察する文化”によってコミュニケーションが成立している場面が多く見られます。
仕様書に書ききれない部分も、経験やニュアンスで補完されることが一般的です。

しかし、オフショアではこの暗黙知がそのまま誤解の原因になります。

よく発生する問題

  • 国内で共有されていた“当たり前”が海外チームに伝わっていない
  • 文書化されていない仕様が多数存在する
  • 曖昧な表現がそのまま誤解として実装に反映され

突破する方法

  • 完了基準(Doneの定義)を明文化する
  • 例外処理や前提条件を必ず文章化する
  • テスト観点やレビュー基準を共有する

“日本式の空気感で補完されてきた部分”を明確にすることで、コミュニケーション量と手戻りが大幅に減少します。

壁②:BrSE(ブリッジSE)への過剰依存 — 一本のパイプに依存すると破綻します

「日本語ができるBrSEがいれば安心」という考え方は、多くの企業で誤解を生みます。BrSEにすべてを依存すると、情報が一点に集中し、以下のような問題が発生します。

  • BrSEの負荷が増大し、レスポンスが遅延する
  • 開発者への情報伝達が不十分になり、理解にばらつきが出る
  • 技術的な議論が十分に行われない

これは“BrSEの能力不足”ではなく、“構造の問題”です。

突破する方法

  • 仕様説明の場には開発者・QCも参加させる
  • 技術領域はエンジニア同士で直接やり取りする
  • BrSEは翻訳役ではなく、コミュニケーションのハブとして活用する

スマラボでは、日本人PMO・コーディネータが体制運営を支援し、BrSE負荷の過集中を避ける設計になっています。

壁③:プロジェクト管理の基準が曖昧 — 国内の“なんとなく管理”は通用しません

国内開発では、担当者の経験や感覚に基づく“暗黙の管理”が機能することが少なくありません。しかしオフショアでは、管理基準が明確になっていないと品質が安定しません。

よく起こる問題

  • タスクの“完了”基準が各メンバーで異なる
  • 進捗報告の粒度が曖昧
  • リスクの顕在化が遅れる
  • レビューサイクルが固定化されない

突破する方法

  • 進捗・課題・リスクの管理プロセスを事前に合意する
  • コード・設計・テストのレビュー頻度を定例化する
  • 定例ミーティングは“報告の場”ではなく“判断の場”として運用する
  • 日本側PMOと開発側が共通の管理モデルを構築する

スマラボの体制では、日本人コーディネータが管理ルールの整備から改善まで伴走し、発注側の負荷を最小化します。

壁④:非機能要件が抜け落ちる ― リリース直前に問題化しやすい領域

機能要件だけが先に進み、非機能要件(性能・セキュリティ・運用設計など)が後回しになるケースは、日本企業のオフショア開発で特に多く見られます。

よくある問題

  • 表示はできるがレスポンスが遅い
  • 負荷試験をしておらず耐久性が不十分
  • ログ・監視設計が決まっていない
  • セキュリティ基準を満たしていない

突破する方法

  • 初期要件の段階で非機能要件を必ず明確化する
  • 性能・セキュリティ検証をスケジュールに組み込む
  • クラウド構成(AWS等)のレビューを日本側で実施する

スマラボではAWS構築やセキュリティ検査にも対応できるため、非機能要件まで含めた総合的な品質担保が可能です。

壁⑤:ナレッジが定着しない ― 属人化を防ぐ仕組みが必要です

ラボ型開発の価値は、継続によりチームが強くなっていく点にあります。しかしナレッジ共有の仕組みがなければ、属人化や品質の揺らぎが発生します。

突破する方法

  • ドキュメント更新をプロセスに組み込む
  • QCによる品質観点の標準化を行う
  • スキルマップを作成し、育成計画を可視化する
  • 長期体制を前提とした運営モデルを構築する

スマラボでは、QC専任配置、日本人PMOによる改善支援、複数案件の知見共有など、長期的な体制成熟を前提とした仕組みが整っています。

まとめ:壁は“文化差”ではなく“構造”で乗り越えられます

日本企業がオフショア開発でつまずきやすいポイントは、単なる文化差ではなく、「運営構造の違い」によって引き起こされるものです。

暗黙知を言語化する、BrSE依存を避ける、管理プロセスを共有する、非機能要件を初期から盛り込む、ナレッジが蓄積される運営体制を作る

これらを押さえることで、オフショア開発は“コスト削減のための外注”ではなく、自社の開発力を長期的に強化する戦略的投資へと変わります。
正しい運営構造を整えれば、日本企業特有の壁は確実に乗り越えることができます。

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