「COBOLは古い」「AIがあれば全部置き換えられる」──そんな言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。けれど実際の現場では、そのどちらも極端な話です。COBOLは今も日本の金融・自治体・製造業などを動かしており、AIも“魔法の置き換え装置”ではありません。

とはいえ、両者の交わる地点には確かに希望があります。
それは「人が減り続けるCOBOL保守の現場を、AIが支援する」という現実的な道です。この記事では、AIがCOBOLの未来にどのように関われるのかを、実例と可能性の両面から考えてみます。

COBOLの“読めない資産”という壁

COBOLシステムが抱える最大の問題は、技術の古さではありません。
それは「誰も全体を理解していない」という構造そのものです。

30年、40年と稼働を続けるシステムは、度重なる改修の結果、仕様書が途切れ、コメントも残っていません。担当者の退職とともにノウハウが消え、プログラムは“動くけれど、なぜ動くのか分からない”状態になる。

この「読めない資産」を前に、現場の若手は尻込みし、ベテランは慢性的に不足する。結果として、COBOL保守の課題は人材問題だけでなく“理解不能な遺産”の問題にすり替わっているのです。

AIはCOBOLを“翻訳”できるのか

生成AIの進化によって、COBOLのコードを解析・要約できるようになりつつあります。
ChatGPTやClaudeなどの大規模言語モデル(LLM)は、COBOLの構文を読み取り、処理内容を自然言語で説明することが可能です。

たとえば、AIにCOBOLプログラムを入力すると「この部分では売上データを月次で集計し、帳票用のCSVを出力しています」といった形で要約してくれます。人間が1日かけて読み解く部分を、数分で概観できるようになる。これは決して小さな変化ではありません。

もちろん、AIがすべて正確に理解できるわけではありません。
COBOLの業務ロジックには、人間の判断や慣習に依存した処理が多く含まれています。たとえば「この条件分岐は過去の制度改正に対応するために追加された」など、コード上には現れない背景知識が必要なケースが多い。AIはそこを推測することはできません。

したがって、AIは「COBOLを置き換える」のではなく、「読めないコードを読むための補助輪」として機能するのです。

AIができること・できないこと

AIがCOBOL現場で活かせる領域は、すでにいくつか見えています。

できることは、コードの要約、命名規則の整理、処理フロー図の生成、テストケースの提案など。
特に、COBOLの複雑なIF文やPERFORM文を整理してフロー化する作業は、AIが最も得意とする部分です。これにより、手作業では追い切れなかったシステムの全体像を短時間で把握できます。

一方で、できないことも明確です。
業務ロジックの意図を理解したり、ドメイン知識を踏まえて仕様を再構築したりすることはAIの守備範囲外です。AIが生成する要約はあくまで“構文の結果”であり、“業務の意味”までは読み取れません。

つまりAIは、熟練エンジニアの代わりにはならないが、理解の出発点を早めるツールにはなり得る。
「1か月かかっていた把握を、1週間に短縮する」──この現実的なスピードアップが、すでに価値を持ち始めています。

AIが教育現場で担う新しい役割

COBOLを教えられる人が減る中、AIが“講師の補助役”として機能する未来も見えています。

ベトナムやインドなど、COBOL教育を再開する大学では、AIを使った自動添削やコード解説ツールの導入が進んでいます。学生が書いたプログラムをAIが評価し、処理内容を説明する。講師はその結果を踏まえて補足説明を行う――そんな“共同授業”が現実になりつつあります。

教育のボトルネックは「教える人がいない」ことです。AIがベースとなる教材や説明を提供できるようになれば、少人数の講師でも多くの学生を育てられるようになります。COBOLを新たに学ぶ人が再び増える可能性もあります。

人とAIで“記憶を継承する保守”へ

AIの最大の価値は、「忘れないこと」です。
人が記憶し続けられなかった仕様や処理を、AIは一度学習すれば再現できます。

今後のCOBOL保守は、AIがコードの要約や説明を行い、人間がその妥当性を検証・改善していくスタイルになるでしょう。AIがつくる“理解の地図”をもとに、現場が意思決定を行う。これは従来の属人化を緩和し、世代交代を支える大きな一歩です。

重要なのは、AIが人を置き換えるのではなく、人がAIを使って過去を翻訳するという発想です。COBOL資産の価値は、“動いている”ことだけでなく、“理解され続ける”ことにあります。AIはその理解の循環を保つ新しい仕組みになるのです。

おわりに

COBOLとAI――一見、時代の両端にあるように見える組み合わせですが、両者の関係は決して対立ではありません。AIは古い技術を切り捨てる道具ではなく、「かつての知識を次世代へ伝える補助線」として機能します。

COBOLを動かすことと、COBOLを理解し続けること。その両方を支える存在として、AIは静かに現実の現場に入り始めています。
そしてその姿は、“レガシーをどう活かすか”という日本の企業に共通する問いに、ひとつの答えを示しているのかもしれません。

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