「COBOLってまだあるの?」。ITに詳しくない経営層から、そんな言葉を投げかけられた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
金融や自治体、保険、製造業など、社会の基幹を支えるシステムでは今もCOBOLが広く使われています。しかし、経営層にとってCOBOLは馴染みが薄く、刷新やDXといった華やかなキーワードの陰に隠れがちです。

現場は人材不足や属人化のリスクに直面している一方で、経営層は「とりあえず動いているなら問題ない」と判断してしまう。ここに大きなギャップが生まれます。本記事では、そのギャップを埋めるために「経営層にどう伝えるか」という視点から、COBOLを知らない人に響く説明のコツを考えていきます。

この記事はこんな人にオススメ!

・自社の基幹システムにCOBOLが残っているが、経営層へ説明するのに苦労している
・COBOLを知らない経営層や意思決定層に、リスクや必要性を分かりやすく伝えたい
・将来的な体制づくりやオフショア活用を検討しており、経営層をどう巻き込むかに悩んでいる

なぜ経営層にとってCOBOLは“見えない存在”なのか

COBOLシステムは、普段は意識されない存在です。大規模な障害が起きなければ、業務は滞りなく進みます。経営層から見れば「長年使っている安定した仕組み」であり、あえて注目する理由がありません。

さらに、経営層が目を向けるのはクラウドやAIといった最新のトレンドであり、「古い技術」に分類されるCOBOLには投資価値を感じにくいのが実情です。そのため、「今すぐリプレイスすればいいのでは?」という安易な発想が生まれやすく、現場の危機感とは温度差が生じてしまいます。

経営層に響く“COBOLの現状”の伝え方

経営層に伝える際、技術用語を並べるのは逆効果です。重要なのは「ビジネスインパクト」で説明することです。

例えば、「人材不足が深刻」と言うだけでは抽象的ですが、「5年以内に現在の保守要員の半数が定年を迎える」と具体的に示せば、危機感は共有できます。また「法改正が発生するたびにCOBOL対応が必要になる」「障害で1日システムが止まれば数億円の損失につながる」といった“数字”に変換すれば、経営層の言語に近づきます。

さらに「古い言語」というネガティブな印象ではなく、「社会インフラを支えてきた技術」とポジティブに位置づけることも有効です。電力や水道と同じように、“なくてはならない存在”として説明すると、経営層も重要性を理解しやすくなります。

よくある誤解とそのほぐし方

経営層が抱きやすい誤解を整理し、それにどう対応するかを考えてみましょう。

まず一つ目は「COBOLはすぐに刷新できる」という誤解です。実際には何十年分もの業務ロジックが積み重なっており、移行には莫大なコストとリスクが伴います。この点は「刷新プロジェクトが過去にどれだけ難航したか」という事例を示すと説得力が増します。

二つ目は「保守要員を採用すれば解決する」という誤解です。COBOL人材は市場にほとんど存在せず、単純に採用で補うことは不可能に近いという現実を数字で示すことが必要です。

三つ目は「ベンダーに任せればいい」という思い込みです。パートナー企業も人材不足に直面しており、撤退リスクや属人化は避けられません。この点は「外注すれば安心」ではなく「体制そのものをどう持続可能にするか」が課題だと強調する必要があります。

いずれの場合も、感情的に反論するのではなく、将来シナリオや定量データを添えて冷静に説明することが重要です。

経営層が判断しやすい“翻訳のコツ”

経営層は技術の詳細を求めているわけではありません。求めているのは「判断材料」です。そのため、現場の知識を経営の言葉に翻訳することが求められます。

一つはお金の言葉に変換することです。「このまま保守人材が減ると、障害発生時に億単位の損失が出る可能性がある」「オフショアを活用すれば10年単位での運用コストを安定化できる」といった数字は理解されやすい切り口です。

次に競争力の言葉に変換することです。「COBOL資産を維持することが、顧客や取引先からの信頼を担保する」「安定した基幹系があるからこそ、新しいサービス開発にリソースを回せる」という説明は、守りが攻めにつながることを伝えます。

さらに人材の言葉に変換することも有効です。「国内では確保困難だが、ベトナムの大学と連携すれば継続的に人材を育成できる」といった具体的な解決策を示すと、経営層も安心して意思決定できます。

伝えるだけで終わらせないために

経営層に伝わったとしても、「理解したつもり」で終わってしまえば意味がありません。大切なのは、意思決定につながる仕組みをつくることです。

その一つが見える化レポートです。稼働状況や障害リスク、人材体制を簡潔にまとめた資料を定期的に提示することで、COBOLの課題が継続的に意識されます。

もう一つは小さな成功体験を共有することです。例えば、オフショアを活用して小規模な保守案件を成功させ、その成果を経営層に報告する。これを繰り返すことで、「現場の提案は信頼できる」という評価が積み重なります。

伝えること自体がゴールではなく、経営層が「次の一手を決められる状態」をつくることこそが最終目的です。

おわりに

いかがでしたか?

COBOLを知らない経営層に、技術そのものを理解してもらうのは難しいことです。しかし、彼らが知りたいのは「事業にとってどんな意味があるのか」「どんなリスクとコストがあるのか」という視点です。現場の言葉を経営の言葉に翻訳できれば、COBOL資産をどう活かすかという議論は前に進みます。

COBOLは古い言語でありながら、今も社会の基盤を支える重要な存在です。だからこそ、正しく伝えることが次の10年のシステム運用を左右します。経営層に響く言葉を選び、冷静に説明する。それが現場に課せられた大切な役割ではないでしょうか。

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