「毎年、保守費が上がっているんです」
システム部門の責任者からこの言葉をよく聞きます。ただし、その理由を聞くと、多くの企業は答えられません。「システムが増えたから」「AIを導入したから」「クラウドの費用が増えたから」——その全部かもしれません。しかし、それが本当の理由でしょうか。
実は、保守費が下がらない企業には、共通する構造的な問題があります。それは単なるコスト管理の甘さではなく、保守体制そのものの設計ミスです。
目次
保守費は「増える」のではなく「増やされ続ける」
保守費が増える理由は、多くの場合「仕方がない」ものではありません。
むしろ、システムの成長、要件の変化、組織の変動に対して、保守体制が適応できていない。その結果、対応コストがどんどん膨らんでいくのです。
ここで重要なのは——保守費が増えること自体は悪くありません。事業が成長すれば、保守投資も増えて当然です。問題は、事業成長に見合わない保守費の増加が起きていることです。
保守費が下がらない3つの構造
1. 属人化による隠れコスト
最初の構造は「属人化」です。
多くの企業では、特定のシステムの運用・保守が、特定の担当者に依存しています。その担当者がいれば問題ありませんが、退職や異動があると、急にコストが膨らみます。
- 引き継ぎに2ヶ月かかる
- その間、簡単な対応でも時間がかかる
- ベンダーへの確認が増える
- 新しい担当者の学習期間が長い
この「見えないコスト」が、保守費の増加要因になっています。
経営層には「保守費が増えた」と報告されますが、実は「体制の脆弱性を補うコスト」が上乗せされているだけです。
2. 仕様書不足による改修コストの膨張
2番目は「仕様書不足」です。
システムが長年運用されていると、「なぜこの処理があるのか」「なぜこのルールになっているのか」の理由が失われていきます。
結果:
- 改修の度に「なぜ?」を調査する
- ベンダーの見積もりがぶれる
- 改修後のテストに時間がかかる
- 予期しない不具合が増える
一度の改修で済むはずが、問い合わせ対応に1ヶ月かかることもあります。
このサイクルが繰り返されると、改修1回あたりのコストが逆算されるという悪循環に陥ります。その結果、「保守費が高い」「改修は避けたい」という判断になり、改修すらできない老朽化したシステムが残り続けます。
3. ベンダー依存による見積もり不透明性
3番目は「ベンダー依存」です。
システムの詳細を知っているのがベンダーだけになると、改修の度に、ベンダーの見積もりに頼ることになります。
問題:
- 見積もりが透明でない
- 同じ機能でも、依頼のしかたで金額が変わる
- 本当に必要な工数なのか、判断できない
- 他社に相談する選択肢がない
この状態では、費用交渉の余地がなく、提示された金額を受け入れるしかありません。
結果として、保守費が「管理の対象」ではなく「避けられない出費」になってしまいます。
これらの構造が組み合わさる悪循環
厄介なのは、この3つの問題が単独ではなく、組み合わさって存在するということです。
この悪循環が始まると、企業は以下のような判断をするようになります。
- 「改修を避ける」→ システムが劣化
- 「パッチワーク対応」→ 複雑さが増す
- 「ベンダー頼り」→ コスト交渉ができない
- 「新規開発を優先」→ 保守体制に投資できない
現実的な解決策:まず「可視化」から始める
では、どう対策するのか。
よくある間違いは「全部作り直す」「高いツールを入れる」という思考です。しかし、それではコストがさらに膨らみます。
現実的な対策は、以下の流れです。
ステップ1: 保守体制を可視化する
まず必要なのは「現状の把握」です。
- どのシステムがどのくらい保守費がかかっているか
- なぜそのコストがかかっているのか
- 誰が依存しているのか
- 仕様の記録がどこまであるのか
これを整理するだけで、対策すべき優先順位が見えてきます。
ステップ2: リスク領域から対応する
すべてのシステムを一度に改善することはできません。
まず対応すべきは「最もリスクが高い領域」です。
- 担当者の退職リスク
- ベンダー依存度の高さ
- 保守費が膨らみ続けているシステム
これらから段階的に対応することで、コストを抑えながら体制を改善できます。
ステップ3: AI-DDを使った段階的な可視化
ここでAIが活躍します。
ただし「AIで全部自動化」ではなく、「可視化を加速させる」という使い方です。
- ソースコード解析で、システム構造を可視化
- 影響範囲を自動調査して、改修リスクを定量化
- ドキュメント生成で、仕様書の骨子を作成
これらにより、属人化やベンダー依存を段階的に解消していく。
スマラボが重視する「並走型」の考え方
このようなアプローチを実践する際に重要なのが、「保守運用を誰が担うのか」という問題です。
スマラボでは、このプロセスを「丸投げ」ではなく「並走」で進めることを重視しています。
理由は簡単です。
- 保守体制の改善には、業務知識が必要
- 日本側のPM/SEが、改善方向を判断する必要がある
- ベトナムの開発チームは「継続開発チーム」として育てるべき
そのため、保守移管やシステム可視化も「日本側PM/SEが主導し、ベトナムチームがサポート」という形で進めるべきです。
こうすることで、ベンダー依存を減らしながら、同時に信頼できる開発チームが組織内に育っていきます。
まとめ
保守費が下がらない企業には、共通する3つの構造がある:
- 属人化 — 特定の担当者への依存
- 仕様書不足 — 改修のたびにコストが膨張
- ベンダー依存 — 見積もり不透明性から交渉ができない
これらは単なる「管理不足」ではなく、保守体制の設計問題です。
解決には、一度に全部を変えるのではなく、まず可視化し、リスク領域から段階的に対応するというアプローチが現実的です。
その過程で、AI-DDやオフショアチームとの並走は、効果的な手段になり得ます。ぜひスマラボまでご相談ください。